『  アヒルの子  ― (1) ―  』 

 

 

 

 

 

 

スタジオの中は かなりの熱気が溜まってきている。

空調は稼働しているが 送風 になっているだけなので温度は上がる一方だ。

 

朝のクラスは そろそろ終盤、ダンサー達の高揚感も盛り上がってきている。

「 え〜っと  アラベスク・ターン三回して アラベスク  バランス〜〜 から

 ランベルセ いれて パドブレ で ( ピルエット ) アンデダン、

あ アームス アンオーでね〜 そして ストゥニュ で振り返り ・・・

 最後は  エカルテ から パ・デ・バスク して ジュッテ〜〜 ではけて。 

おっけ〜?   はい  ピアノ お願いね〜〜 」

主宰者でプロフェッショナル・クラスを指導するマダムは

振りの順番をささ・・・っと説明した。

ダンサーたちは ぶつぶつ順番を繰り返したり 軽く動いてみたりして

アタマに叩きこんでいる。

「 ・・・ えっと ・・・ アームスは アンオー ね 」

フランソワーズも 小さくステップを踏み真剣に順番を復習している。

「 は〜〜い それじゃ ファースト・グループから〜〜

 四人づつでいいかな〜〜   ピアノ お願いします。 」

 

  〜〜〜〜♪ ♪♪   ♪ 〜〜〜 ♪♪

 

すぐに軽やかなワルツが奏で始められ ファースト・グループが踊り始めた。

 

「 ・・・あ そっか。 ここで 溜めれば ・・・ 」

フランソワーズは後ろから食い入るように見つめている。

ファースト・グループには このバレエ団を代表するダンサーばかり。

大きな作品で 芯 を踊るヒト達だ。

「 う〜〜ん ・・・ さすが〜〜 Hさんねえ 上手・・・ 」

感心したり、 憧れたり ・・・ 皆の踊りに目が吸いつけられる。

 

「 〜〜っと。 次〜〜 女子 最終グループよ?  いい? 」

マダムの声が飛んできた。

「 ! フランソワーズ〜〜  ほらっ 」

「 ・・・ あ!  」

仲良しの みちよ に引っ張られ フランソワーズは慌ててセンターに並んだ。

「 ほらほら ぼんやりしてないで 」

「 は はい ・・・ ! 」

プレパレーションをして   7 ・・・ 8 ・・・

 彼女は ラスト・グループの一人となり踊り始めた。

 

  〜〜 ♪。  音が消える。

 

アラベスク で バランス〜〜 をしていたフランソワーズは

ほっとして サイドにはけた。

 

    ・・・は ・・・ じゅ 順番 間違えなかった ・・・ !

 

彼女はこそっと タオルに手を伸ばした。

 

「 う〜〜ん ・・・ ねえ 三拍子なのよ? ワルツよ?

 順番通り 動けばそれでおっけ〜 じゃないからね? 」

マダムは すこし機嫌が悪い。

「 ま よく考えて。  じゃ ラスト、グラン・フェッテね〜〜

 ボーイズ、ア・ラ・セゴンド・ターン えっと 5人づつ   はい どうぞ 」

華やかなコーダの音楽が始まり ダンサー達は

32回のグラン・フェッテを始めた。

 

「 途中でやめな〜〜〜い ! 」

「 いい? 8 8 8 でカウントするの。

 16までいったら また 1、と思えばいいのよ 」

「 ほらほら ・・・ どこゆくの? 」

マダムのお小言が飛び ダンサー達の汗も飛ぶ。

「 ボーイズ! 脚、 落とさないっ! 」

「 こら〜〜 やめないっ 」

 

フランソワーズは やはり女子最後のグループで 

なんとか 32回まわり切った。

 

     ! 〜〜〜〜 ふぅ ・・・・ や やったわ ・・・・

 

もうタオルはぐちょぐちょだ。

「 ・・・ 明日から タオル二枚だわ〜 ううん シャワーの分も

 あるから 三枚かあ ・・・ 」

熱い息を吐きつつも 彼女はほっとしていた。

 

   ・・・ 転ばなかった ・・・ なんとかついてゆけた かな ・・・

 

「 は〜〜い お疲れ様〜〜 」

全員が 優雅にレヴェランスをし拍手をし 朝のクラスは終了・・・と

思ったが。

指導者のマダムは いつもはさっさと スタジオから出てゆくのだが 足を止め 

もう一度、全員を見渡した。

「 あのね。 音楽で踊る のじゃなくて。 音楽を踊るの。

 よく考えて。  順番通り踊ればいいってもんじゃないでしょう? 」

 

    ・・・・・  熱い沈黙がスタジオに満ちた。

 

「 ふふ  じゃあね お疲れさま〜〜  あ 掲示、よく見ること! OK? 」

に・・・っと笑うと マダムは靴音高くスタジオを出ていった。

 

「 ・・・ ・・・・ 」

後ろの隅っこで フランソワーズはそっとため息を吐いた。

今日も これで精一杯だった。

このスタジオのレッスンに通うようになり ― 再び 踊りの世界に戻ってきて

最初は 忘れていたテクニックを追うのに必死だった。

今だって この身体 に慣れてはいない。

以前の感覚とは まったく異なってしまっていたから。

まだまだ こそ・・・っとため息 ばかりだ。

 

「 フランソワーズ?  ねえ 掲示、みよ 」

隣のバーにいるみちよが 声をかけた。

「 え? けいじ・・・ってなあに。 」

「 あ〜 知らないよね〜〜 そろそろね〜 研究生の勉強会 があるんだ〜 」

「 べんきょうかい? 」

「 そ。 発表会 ってか 小さなコンサート というか ・・・

 アタシ達全員 出るの。 」

「 まあ そうなの?  楽しみだわ〜〜 」

「 なにノンキなこと、言ってるの〜〜 フランソワーズも踊るんだよ?? 」

「 え! わ わたしも?? だって 」

「 フランソワーズだって 研究生じゃ〜〜ん。 配役は多分もう決まってるよ

 ね〜〜〜 なんだろね〜〜〜 見にいこ 」

「 あ それが掲示されてるの 

「 そ そ〜〜  いこ〜〜  」

「 え ええ ・・・ 」

みちよに引っ張られ フランソワーズも廊下に出た。

 

 

 

   カラン ・・・ アイス・テイ のグラスの中で氷が鳴った。

 

「 ・・・ う〜〜〜ん ・・・・ 」

まん丸お目目の黒髪女子が 呻る。

 

   シャリ シャリ シャリ〜  アイス・ミルクがせわしなくかき混ぜられた。

 

「 ど どうしよう ・・ 」

金髪碧眼の女子は おろおろしている。

 

「 は ・・・ ねえ フランソワーズ〜〜 ケーキでもたべよっか ? 」

「 みちよ ・・・で でも ・・・ 」

「 ・・・ そだよねえ ダイエットの日々かあ ・・・  」

「 白チュチュは ・・・ キツいわよねえ 

「 そ〜〜うなんだよぉ〜〜  なんでアタシが オデットぉ〜〜? 」

「 みちよは ピルエットとかテクがあるから ・・・ 

「 オデットのV. ( ヴァリエーション ) に ピルエット ある? 」

「 ・・・ ピケ・ターンとシェネ はある けど 」

「 で しょ。 アタシ あ〜ゆ〜 優雅なのは  ―  ダメなのぉ  」

「 そんなこと・・・ 」

「 そんなこと、あるの。 フランソワーズは  ジプシーの踊り  かあ 

「 ねえ 教えて?  わたし その ・・・ パリでは 『 ドンキ 』 

 あまり見ていないの 」

「 へ ええ??  ドンキって パリじゃ人気ないの? 」

「 そういうワケでもないかもしれない けど ・・・ 

 わたし ジプシーの踊り を 舞台で見たことがないの。 」

「 おっとぉ〜〜 そりゃ はやく事務所でDVD か CD 借りてきたら?

 あれ 確かナマ足で踊る かも 」

「 え  素足で踊るの? 」

「 う〜〜ん  ジュニアの頃 先輩が踊るを見たんだ〜 」

「 そ そうなの? え ・・・ 素足で踊ったこと ないわ 

 バレエ・シューズじゃダメなのかしら  」

「 さあ〜〜ね?  先生に聞いてみたら 」

「 そう ね ・・・ ああ でも できるかなあ ・・・ 

 情熱的な踊り なんでしょう? 」

「 うん。 ま〜 フランソワーズのキャラとは真逆だね 」

「 そう? 」

「 だってさ〜 フランソワーズって こう〜〜 おっとり優しいじゃん?

 いいトコのお嬢さま〜〜って雰囲気でさ 」

「 え。 わたし お嬢さま じゃないわよ  バイトもするし。 」

「 イメージよ イメージ。 

 ああ やっぱさあ ケーキ、食べよ! 前祝い・・・っていうか

 < けーきさん、今日でお別れ > ってことで 」

「 あは いいわね〜〜 わたしね、日本のイチゴのケーキ、大好き!  」

「 あ〜 ショート・ケーキね〜 アタシはモンブランにしよ 」

「 きゃ ♪ 」

二人は 若干憂さ晴らし? 気分で ケーキを注文した。

 

勉強会 という名の小ステージ、研究生たちは与えられた踊りを披露しなければ

ならない。  文字通り 勉強 のためなので だいたい誰も本人が不得手なものが

回ってくる。

回転系のテクに強いみちよ には 優雅な オデットのV.が。

ほんわかした雰囲気のフランソワーズ には 情熱的な ジプシーの踊り が

割り振られたのだった。

 

 

  キュ。  リモコンを握りしめた。

「 ・・・ う〜〜〜ん ・・・ 」

明かりを落としたリビングで フランソワーズは 伸びたり縮んだりしている。

< ジプシーの踊り > のCDを事務所から借りてきたのだが・・・

何回 再生しても ・・・ 出てくるのはため息ばかり なのだ。

 

朝のレッスンが終わると フランソワーズは着替えをする前に

事務所にとんでいった。

「 あの 〜〜 」

「 はい? 」

「 あのぉ・・・ CD、借りたいんですけど 

「 ?  あ〜〜 勉強会のためね。 演目はなんですか 

「 あ はい ・・・ 」

フランソワーズが答える前に クラスを終えたばかりのマダムが顔を出した。

「 これ ね。 よ〜〜く研究してね  

CDが ぽん、と手渡された。

「 あ ありがとうございます。

「 このCDだと 素足で踊ってるけど 

 振りを直すから ポアント やってね 」

CDを受け取るとき マダムはにっこり笑って言った。

「 は? はい ・・・ じゃ 違う振りなんですか 」

「 う〜うん ・・・ ほとんどこのままだから これで覚えてきて。

「 は はい ・・・ 

「 あら。 ねえ ジプシーの踊り って見たこと あるでしょう? 

 『 ドンキ 』 は 人気の演目だし 」

「 あ ・・・ いえ あのぅ〜〜 直接の舞台は ・・・・ まだ 

「 そうなの? それじゃ新鮮でいいわ〜〜  

 うふふ・・・ あなたの ジプシー娘 楽しみにしてるわ。

 そうそう スケジュールは事務所でもらってね。 」

「 は  はい ・・・ 

ぽん、と渡されたCDを 彼女はおそるおそる表面を撫でていた。

 

帰宅して 夕食後、勇んでリビングのTVの前に座った。

  ―  のだが。

 

「 う〜〜ん ・・・・  これを 踊る わけ ・・・? 」

落した照明の中で ジプシー娘が情熱的に踊る。

所謂クラシックのヴァリエーションとは かなりちがう。

ぱっと見ただけでは 振りの順番は皆目わからかなった。

 

「 ・・・ スローにして ・・・ 」

結局 CDを止め 止め にしつつ なんとかステップの順番を書きとった。

「 ・・・ う〜〜〜 でも これ・・・ 踊れる? 」

音楽は 聞いたことがあったし、すぐに好きになった。

 

  けど。  だけど  だ  け  ど。

 

「 これを どうやって踊るのぉ〜〜〜 」

今まで踊ってきたものは きっちり順番の決まった踊りがほとんどだった。

「 これじゃ コンテ とか モダン の振りなんじゃないの 

 わたし  クラシックしか勉強してきてないんですけどぉ〜〜 」

ふう 〜〜〜  また特大のため息。

 

     でも 踊らなきゃならない のよね ・・・ う〜〜ん

 

まさに彼女はアタマを抱えてしまった。

 

「 ・・・ まだ 起きてるのかい? 」

リビングの入口から声がした。

「 あ ・・・ ジョー ・・・ ごめんなさい、煩かった? 」

「 いや 全然。 水 飲みたいな〜って降りてきただけさ。 」

「 そう? 」

「 今晩はもうこれくらいにしたら?  明日も早いんだろ 」

「 え?  きゃ もうこんな時間〜〜〜 」

「 こんな時間 だよ?  」

「 ・・・ でもね 全然覚えられないの。 」

「 ?? なにを 覚えるのかい 」

「 あ ああ あの・・・ 今度踊るおどりの振付。

 そのう〜〜 踊りの順番が 覚えられないのよ。  

「 ・・・ ぼくは よくわかんないけど ・・・

 一度に全部、じゃなくて 少しづつ・・・ってのはダメなの? 

「 ううん  そうするわ。 

 あ  ねえ ジョー。  ちょっと聞いてもいい 」

「 ?? ぼくに?? なに 」

「 え あ〜 うん ・・・・ あのね、自分とはかけ離れたキャラを

 演じるって どうしたらいいのかな〜〜って・・・ 

「 え  ・・・ う〜〜 ・・・ ぼくは役者でもダンサーでも

 ないからなあ ・・・ その人物のキモチになってみる、とか

 同じような恰好をしてみる とか ・・・? 」

「 キモチ ・・・ 気分のことね? 」

「 まあ そうかな  

「 そっか ・・・  そうね ありがとう ジョー  

「 え いや その・・・ ぼくは 踊りのこと、全然わかんないから

 役に立たないと思うけど 

「 そんなこと ないわ。  すごいヒントだわ。

 うん ・・・ いいこと聞いたわ、 決めた! 」

「 え そ そっかな〜〜〜 」

「 ふふ メルシ ジョー 」

  ちゅ。     ちっちゃなキスが ジョーのほっぺに飛んできた。

 

       う うわ〜〜〜お〜〜〜〜♪

 

翌日の夜 ― バス・ルームにて・・・

「 そうよね〜〜 ちょっと気分から入ってみるのもいいわよね。 

 ジプシー娘 ったら 髪は黒 でしょう?  

 うっふ 髪〜〜 染めてみよっ  カンタンな髪染めがいっぱいあって

 助かっちゃった  」

フランソワ―ズは ごそごそ、しゅしゅしゅ〜〜  ・・・ 作業に没頭した。

 

翌朝、 ジョーは例によって寝坊したので 彼女が出かける姿を

見送ることはできなかった。

 

 ≪ サンドイッチ と ミルクは冷蔵庫。 遅刻しないようにね F。 ≫

 

そんなメモが キッチンのテーブルでジョーを待っていた。

「 ・・・ あ  ありがとう〜〜〜 フランソワーズぅ〜〜〜〜

 レッスン、がんばれ。 ぼくも バイトに行きます 」

彼は上機嫌で 朝食を食べ始めた。

「 !  うわお ・・・ マスタードがキツイけど〜 ハムサンド、ウマい!

 うお? ポテト・サラダにワサビ?  う〜〜 卵サンドはタバスコか〜 

 ・・・ 美味しいけど  なんか刺激つよいな〜〜  ミルク ミルク〜〜 」

ジョーは 牛乳パックを空にしていた・・・

 

 

その頃 バレエ団のスタジオでは ―

 

黒髪でちょいと濃い目の化粧をした女性が 入ってきた。

「 ・・・ ん っと。 おはよ〜〜 ございます〜〜〜 」

「 おはよ〜 ・・・ わ?? 」

「 ん? おはよ  え〜〜  ふ フランソワーズ? 」

「 ?! すっご・・・  きゃ〜 イメチェンじゃ〜ん 」

「 フランソワーズって ・・・ お〜っと 黒髪のパリジェンヌか〜  

ストレッチをしていた仲間たちが 次々に振り返った。

「 え ・・・へ・・・ どう ですか? 」

「 かっけ〜〜 よ〜〜 」

「 ちがうヒトみたい、にあうわぁ〜〜 」

ちょっと頬を染めている彼女に 皆は温かい声援をくれたのだった。

 

  うふふ ・・・ ちょっと気分も大胆になった気分〜

 

フランソワーズは 張り切ってストレッチを始めた。

 

「 はい 始めますよ 」

 〜〜〜〜 ♪

マダムの声と共に ピアノが軽く鳴った。

 

   ザ −−−  ダンサー達は立ち上がり それぞれバーについた。

 

「 はい 二番から。 ドゥミ・プリエ 二回 グラン 一回 

 アームスは 〜〜    はい どうぞ 

さっと順番を指示すると ピアノが前奏を響かせダンサー達は大きく息をすった。

 

    ・・・ がんばる わ! ・・・

 

フランソワーズもきゅっと口を結んだ ―  

 

 

「 は〜い じゃ ここまで。  お疲れさま〜〜  」

マダムの声と共に 全員がレヴェランスをし、拍手をした。

 ピアニストさんにも感謝の拍手を送り 朝のクラスは終わった。

 

「 ・・・ あ〜 ・・・・ 

タオルに顔を埋め フランソワーズはふか〜〜〜くため息を吐いた。

汗でタオルはもうぐちゃぐちゃだ ・・・ いつもの事だけど。

「 は〜〜あ 疲れたぁ〜 」

隣のみちよも ペットボトルの水をぐいぐい飲んでため息だ。

「 やっぱ できない ・・・ かも ・・・ 」

「 ? なに フランソワーズ 」

「 ・・・ 髪 黒くしても 情熱的な踊り なんてできない〜〜 」

「 う〜〜ん ・・・ 」

「 ど〜したらいいのぉ ・・・ 」

「 う〜〜ん ・・・ 」

「 みちよはどうしてるの?  優雅な踊り ・・・ 」

「 も〜ね 日常動作を優雅に〜〜 ・・・・って出来るワケないよ 」

「 だわよねえ  ― 見かけだけ変えてもダメってことね 」

「 う〜〜ん ・・・ 」

思うに さ、 と みちよはのんびりと言った。

「 なりきる って姿形じゃないってことかなあ

 フランソワーズは フランソワーズの 情熱的な踊り でいいんでないの? 」

「 そ ・・・ っか ・・・

 ふふ  じゃ みちよも元気がいいオデット、でもいいんじゃない? 」

「 うん!  サンキュ フランソワーズ。 ね〜〜 がんばろっ 」

「 うん 」

「 ね 帰りにさ〜〜 ケーキ 」

「 だめよぉ ケーキは。 勉強会 終わってからね  」

「 う 〜〜 ・・・  あはは 

仲良し二人は 笑い声を上げスタジオを出ていった。

 

 

「 ふんふん〜〜〜 黒髪ってなんか〜〜大胆になっちゃうわ♪

 ちょっとイタズラしちゃお〜〜かな〜〜〜 

フランソワーズは ご機嫌で帰宅すると玄関の前に立った。

ちょっと気取って ぴんぽん。 インターフォンを押してみた。

 

   ふふふ〜〜  わかるかなあ ・・・

   ヨソのヒトみたいでしょ?

 

ところが。

 

   は〜い 

 

すぐにジョーの声が応じ ― 

「 Bonjour ? 」 

「 ?  あ〜〜 フラン どしたの? 開かない?

 セキュリテイの音声チェック、壊れてたかなあ 〜  はい 」

  ガチャ。 玄関のドアが開いた。

「 おかえり〜〜〜 フラン  

「 あ  ただいま  ジョー ・・・ あのぉ〜〜〜 」

「 すぐに直しておくね。 」

「 そ そう ね ・・・ あの ね、わたし 」

「 うん? 開かないって困るもんね。  」

「 うん ・・・ お茶にしましょ 」

「 わい。 あ その髪 なかなかいいね〜〜  」

「 そ そう? 」

「 うん カワイイよ〜〜  ・・・ ぼく、いつものフランが一番好き 」

「 え ・・・ 」

「 えへへ〜〜 チャイム 直すね 」

「 あ ・・・ 」

ジョーは 工具箱をとりに駆けていってしまった。

 

   な〜〜んだ ・・・ すぐにわかっちゃったのね

   でも 

   いつものフランが一番好き か ・・・

   うふふ 〜〜  

 

自然に笑みが浮かんできた。 彼女もご機嫌でキッチンに向かった。

 

 

  カチン ・・・ カチャ カチャ・・・

「 おいし〜〜〜〜  フランのカフェ・オ・レ 〜〜 」

「 そう? 嬉しいわあ 」

「 ん〜〜〜  シフォンケーキもオイシイなあ 

「 ジョーって優しいのね 

「 え〜〜〜  そんなこと ないよぉ 」

「 ううん そんなこと あるわ。 ねえ ・・・ 聞いてもいい? 」

「 なに?? 」

「 あの ね。 わたしって 大人しくてほんわか してる? 」

「 え?? 」

「 皆の、 バレエ団の皆はね そう思ってるみたいなの、わたしのこと。 」

「 ふ〜〜ん ・・・・ 」

「 ねえ   わたしって大人しい? 」

「 きみは 大人しいかって?   と〜んでもないよ〜ぉ 

 ぼく達の中で一番 ・・・ 」

 気が強くて  … と言いそうになって ジョーは口を噤んだ。

 実際  最強は フランソワーズだ、 と ジョーは確信しているのだが。

「 一番 ・・・ なに? 」

「 あ〜〜〜 いちばん ・・・ げ 元気! 」

「 そうよね!  じゃあ いつものわたしで踊ればいいのかなあ 」

「 あ この前言ってた 次に踊るヤツのこと? 」

「 そ。  キャラになり切って・・・って思ったんだけど なかなかできなくて 」

「 あ〜〜 ぼく そんなコト、言ったよなあ ・・・

 ねえ、 フランの気持ちを 踊れば?  」

「 わたしの気持ち?   あのね ジプシー娘の踊り なの。 」

「 ジプシー? う〜ん  それじゃ そのジプシーさん はなにを主張したいわけ?

「 主張 って   う〜ん   叶わぬ恋 かしら 

「 そっか フランだったら  

「 わたし  そういう恋って 経験ないのね〜 だからよくわかんなくて ・・・ 」

「 う〜ん  そこは 想像力で さ〜  」

「 そうぞうりょく?   勝手に作るの? 

「 いや クリエイト じゃなくて  イマジネイト の方さ  」

「 あ〜  そうねぇ う〜ん 」

「 あのさ、 ぼく カメラの講座に行ってるんだけど  イイコト聞いたよ。

 全く無関係な視点 思いっきり入り込んだ視点 必要だって。

  ちょっと違うけど ・・・ フランのジプシー娘 それでいいって思うけど 」

「 それでいい ・・・っていうか それっきゃない、わね。

 うん。 なんかすっきりしたわ。 ジョー ありがとう ♪ 」

「 えへ ・・・ あんまし参考にならないよね・・・ ごめん。  

 あ ・・・ 時たま 黒髪もいいかも〜〜 ぼく ・・・ すき 」

なぜかジョーは真っ赤になっていた。

 

 

その夜、フランソワーズは珍しくも海外に電話をした。

「 アルベルト? 」

「 ・・・ フランソワーズか。 なんだ 急用か 」

「 あ ちがうの。 私用デス。 あのね ・・・ 

彼女は手短に状況を語った。

「 それで ね。 役になり切るって 恰好だけじゃダメね? 」 

音楽という芸術に携わる仲間は 即答した。

「 当たり前だな。 オマエは 躍り子 じゃなくて アーティストだろうが  」

「 ・・・ え ? 」

「 え  じゃない。  芸術を志すものの究極の目標はいつも ひとつ だ。 」

「  ひとつ? 」

「 自分が志す芸術のすばらしさを 世界中に広めること だ。

 自身の演奏や 演技や 作品や  踊り で な。 」

「 そ・・・っか ・・・ 

「 お前自身で、な。 

「 うん わかったわ。 メルシ・・・ じゃなくて だんけしぇ〜ん 」

「 ふふん  がんばれよ 」

「 うん♪ 」

 

次に市外電話を ヨコハマにかけた。

「 もしもし ・・・ グレート? 」

「 おう。 どうした、マドモアゼル。 じゃぱに〜ず・ぼ〜い と

 ケンカでもしたのかい。 」

「 え 違うわよ〜〜  あのね ・・・・ 」 

手短に事情を説明した。

「 役? ふむ。  なり切る、というのは初心者だな 」

「 え? 」

「 俳優とは 己自身を演じるのさ、その役の中で な。 」

「 役の中で? 」

「 左様。 誰がやっても同じハムレット など見るに値せんだろ 」

「 あ  そうね。 」

「 マドモアゼルはマドモアゼルの 白鳥なり美女を踊りたまえ。 」

「 Yes sir !!! 

「 がんばりたまえよ。 マドモアゼル。 」

「 は〜〜い♪ 」

 

 

     わたしは ― わたしの中のジプシー娘を踊るわ 

 

フランソワーズは かっきりと前をみつめた。

ステージは もうすぐだ。

 

Last updated : 05,08,2018.                   index      /     next

 

 

           ************  途中ですが

え〜〜〜  コテコテのバレエ話 かも・・・・

で 続きます〜〜

白鳥〜 や ジゼル の他にも 魅力的な

バレエがた〜〜くさんあるのですヨ ♪