『 アヒルの子 ― (1) ― 』
スタジオの中は かなりの熱気が溜まってきている。
空調は稼働しているが 送風 になっているだけなので温度は上がる一方だ。
朝のクラスは そろそろ終盤、ダンサー達の高揚感も盛り上がってきている。
「 え〜っと アラベスク・ターン三回して アラベスク バランス〜〜 から
ランベルセ いれて パドブレ で ( ピルエット ) アンデダン、
あ アームス アンオーでね〜 そして ストゥニュ で振り返り ・・・
最後は エカルテ から パ・デ・バスク して ジュッテ〜〜 ではけて。
おっけ〜? はい ピアノ お願いね〜〜 」
主宰者でプロフェッショナル・クラスを指導するマダムは
振りの順番をささ・・・っと説明した。
ダンサーたちは ぶつぶつ順番を繰り返したり 軽く動いてみたりして
アタマに叩きこんでいる。
「 ・・・ えっと ・・・ アームスは アンオー ね 」
フランソワーズも 小さくステップを踏み真剣に順番を復習している。
「 は〜〜い それじゃ ファースト・グループから〜〜
四人づつでいいかな〜〜 ピアノ お願いします。 」
〜〜〜〜♪ ♪♪ ♪ 〜〜〜 ♪♪
すぐに軽やかなワルツが奏で始められ ファースト・グループが踊り始めた。
「 ・・・あ そっか。 ここで 溜めれば ・・・ 」
フランソワーズは後ろから食い入るように見つめている。
ファースト・グループには このバレエ団を代表するダンサーばかり。
大きな作品で 芯 を踊るヒト達だ。
「 う〜〜ん ・・・ さすが〜〜 Hさんねえ 上手・・・ 」
感心したり、 憧れたり ・・・ 皆の踊りに目が吸いつけられる。
「 〜〜っと。 次〜〜 女子 最終グループよ? いい? 」
マダムの声が飛んできた。
「 ! フランソワーズ〜〜 ほらっ 」
「 ・・・ あ! 」
仲良しの みちよ に引っ張られ フランソワーズは慌ててセンターに並んだ。
「 ほらほら ぼんやりしてないで 」
「 は はい ・・・ ! 」
プレパレーションをして 7 ・・・ 8 ・・・
彼女は ラスト・グループの一人となり踊り始めた。
〜〜 ♪。 音が消える。
アラベスク で バランス〜〜 をしていたフランソワーズは
ほっとして サイドにはけた。
・・・は ・・・ じゅ 順番 間違えなかった ・・・ !
彼女はこそっと タオルに手を伸ばした。
「 う〜〜ん ・・・ ねえ 三拍子なのよ? ワルツよ?
順番通り 動けばそれでおっけ〜 じゃないからね? 」
マダムは すこし機嫌が悪い。
「 ま よく考えて。 じゃ ラスト、グラン・フェッテね〜〜
ボーイズ、ア・ラ・セゴンド・ターン えっと 5人づつ はい どうぞ 」
華やかなコーダの音楽が始まり ダンサー達は
32回のグラン・フェッテを始めた。
「 途中でやめな〜〜〜い ! 」
「 いい? 8 8 8 でカウントするの。
16までいったら また 1、と思えばいいのよ 」
「 ほらほら ・・・ どこゆくの? 」
マダムのお小言が飛び ダンサー達の汗も飛ぶ。
「 ボーイズ! 脚、 落とさないっ! 」
「 こら〜〜 やめないっ 」
フランソワーズは やはり女子最後のグループで
なんとか 32回まわり切った。
! 〜〜〜〜 ふぅ ・・・・ や やったわ ・・・・
もうタオルはぐちょぐちょだ。
「 ・・・ 明日から タオル二枚だわ〜 ううん シャワーの分も
あるから 三枚かあ ・・・ 」
熱い息を吐きつつも 彼女はほっとしていた。
・・・ 転ばなかった ・・・ なんとかついてゆけた かな ・・・
「 は〜〜い お疲れ様〜〜 」
全員が 優雅にレヴェランスをし拍手をし 朝のクラスは終了・・・と
思ったが。
指導者のマダムは いつもはさっさと スタジオから出てゆくのだが 足を止め
もう一度、全員を見渡した。
「 あのね。 音楽で踊る のじゃなくて。 音楽を踊るの。
よく考えて。 順番通り踊ればいいってもんじゃないでしょう? 」
・・・・・ 熱い沈黙がスタジオに満ちた。
「 ふふ じゃあね お疲れさま〜〜 あ 掲示、よく見ること! OK? 」
に・・・っと笑うと マダムは靴音高くスタジオを出ていった。
「 ・・・ ・・・・ 」
後ろの隅っこで フランソワーズはそっとため息を吐いた。
今日も これで精一杯だった。
このスタジオのレッスンに通うようになり ― 再び 踊りの世界に戻ってきて
最初は 忘れていたテクニックを追うのに必死だった。
今だって この身体 に慣れてはいない。
以前の感覚とは まったく異なってしまっていたから。
まだまだ こそ・・・っとため息 ばかりだ。
「 フランソワーズ? ねえ 掲示、みよ 」
隣のバーにいるみちよが 声をかけた。
「 え? けいじ・・・ってなあに。 」
「 あ〜 知らないよね〜〜 そろそろね〜 研究生の勉強会 があるんだ〜 」
「 べんきょうかい? 」
「 そ。 発表会 ってか 小さなコンサート というか ・・・
アタシ達全員 出るの。 」
「 まあ そうなの? 楽しみだわ〜〜 」
「 なにノンキなこと、言ってるの〜〜 フランソワーズも踊るんだよ?? 」
「 え! わ わたしも?? だって 」
「 フランソワーズだって 研究生じゃ〜〜ん。 配役は多分もう決まってるよ
ね〜〜〜 なんだろね〜〜〜 見にいこ 」
「 あ それが掲示されてるの 」
「 そ そ〜〜 いこ〜〜 」
「 え ええ ・・・ 」
みちよに引っ張られ フランソワーズも廊下に出た。
カラン ・・・ アイス・テイ のグラスの中で氷が鳴った。
「 ・・・ う〜〜〜ん ・・・・ 」
まん丸お目目の黒髪女子が 呻る。
シャリ シャリ シャリ〜 アイス・ミルクがせわしなくかき混ぜられた。
「 ど どうしよう ・・ 」
金髪碧眼の女子は おろおろしている。
「 は ・・・ ねえ フランソワーズ〜〜 ケーキでもたべよっか ? 」
「 みちよ ・・・で でも ・・・ 」
「 ・・・ そだよねえ ダイエットの日々かあ ・・・ 」
「 白チュチュは ・・・ キツいわよねえ 」
「 そ〜〜うなんだよぉ〜〜 なんでアタシが オデットぉ〜〜? 」
「 みちよは ピルエットとかテクがあるから ・・・ 」
「 オデットのV. ( ヴァリエーション ) に ピルエット ある? 」
「 ・・・ ピケ・ターンとシェネ はある けど 」
「 で しょ。 アタシ あ〜ゆ〜 優雅なのは ― ダメなのぉ 」
「 そんなこと・・・ 」
「 そんなこと、あるの。 フランソワーズは ジプシーの踊り かあ 」
「 ねえ 教えて? わたし その ・・・ パリでは 『 ドンキ 』
あまり見ていないの 」
「 へ ええ?? ドンキって パリじゃ人気ないの? 」
「 そういうワケでもないかもしれない けど ・・・
わたし ジプシーの踊り を 舞台で見たことがないの。 」
「 おっとぉ〜〜 そりゃ はやく事務所でDVD か CD 借りてきたら?
あれ 確かナマ足で踊る かも 」
「 え
素足で踊るの? 」
「 う〜〜ん ジュニアの頃 先輩が踊るを見たんだ〜 」
「 そ そうなの? え ・・・ 素足で踊ったこと ないわ
バレエ・シューズじゃダメなのかしら 」
「 さあ〜〜ね? 先生に聞いてみたら 」
「 そう ね ・・・ ああ でも できるかなあ ・・・
情熱的な踊り なんでしょう? 」
「 うん。 ま〜 フランソワーズのキャラとは真逆だね 」
「 そう? 」
「 だってさ〜 フランソワーズって こう〜〜 おっとり優しいじゃん?
いいトコのお嬢さま〜〜って雰囲気でさ 」
「 え。 わたし お嬢さま じゃないわよ バイトもするし。 」
「 イメージよ イメージ。
ああ やっぱさあ ケーキ、食べよ! 前祝い・・・っていうか
< けーきさん、今日でお別れ > ってことで 」
「 あは いいわね〜〜 わたしね、日本のイチゴのケーキ、大好き! 」
「 あ〜 ショート・ケーキね〜 アタシはモンブランにしよ 」
「 きゃ ♪ 」
二人は 若干憂さ晴らし? 気分で ケーキを注文した。
勉強会 という名の小ステージ、研究生たちは与えられた踊りを披露しなければ
ならない。 文字通り 勉強 のためなので だいたい誰も本人が不得手なものが
回ってくる。
回転系のテクに強いみちよ には 優雅な オデットのV.が。
ほんわかした雰囲気のフランソワーズ には 情熱的な ジプシーの踊り が
割り振られたのだった。
キュ。 リモコンを握りしめた。
「 ・・・ う〜〜〜ん ・・・ 」
明かりを落としたリビングで フランソワーズは 伸びたり縮んだりしている。
< ジプシーの踊り > のCDを事務所から借りてきたのだが・・・
何回 再生しても ・・・ 出てくるのはため息ばかり なのだ。
朝のレッスンが終わると フランソワーズは着替えをする前に
事務所にとんでいった。
「 あの 〜〜 」
「 はい? 」
「 あのぉ・・・ CD、借りたいんですけど 」
「 ? あ〜〜 勉強会のためね。 演目はなんですか 」
「 あ はい ・・・ 」
フランソワーズが答える前に クラスを終えたばかりのマダムが顔を出した。
「 これ ね。 よ〜〜く研究してね
」
CDが ぽん、と手渡された。
「 あ ありがとうございます。 」
「 このCDだと 素足で踊ってるけど
振りを直すから ポアント で やってね 」
CDを受け取るとき マダムはにっこり笑って言った。
「 は? はい ・・・ じゃ 違う振りなんですか 」
「 う〜うん ・・・ ほとんどこのままだから これで覚えてきて。 」
「 は はい ・・・ 」
「 あら。 ねえ ジプシーの踊り って見たこと あるでしょう?
『 ドンキ 』 は 人気の演目だし 」
「 あ ・・・ いえ あのぅ〜〜 直接の舞台は ・・・・ まだ 」
「 そうなの? それじゃ新鮮でいいわ〜〜
うふふ・・・ あなたの ジプシー娘 楽しみにしてるわ。
そうそう スケジュールは事務所でもらってね。 」
「 は はい ・・・ 」
ぽん、と渡されたCDを 彼女はおそるおそる表面を撫でていた。
帰宅して 夕食後、勇んでリビングのTVの前に座った。
― のだが。
「 う〜〜ん ・・・・ これを 踊る わけ ・・・? 」
落した照明の中で ジプシー娘が情熱的に踊る。
所謂クラシックのヴァリエーションとは かなりちがう。
ぱっと見ただけでは 振りの順番は皆目わからかなった。
「 ・・・ スローにして ・・・ 」
結局 CDを止め 止め にしつつ なんとかステップの順番を書きとった。
「 ・・・ う〜〜〜 でも これ・・・ 踊れる? 」
音楽は 聞いたことがあったし、すぐに好きになった。
けど。 だけど だ け ど。
「 これを どうやって踊るのぉ〜〜〜 」
今まで踊ってきたものは きっちり順番の決まった踊りがほとんどだった。
「 これじゃ コンテ とか モダン の振りなんじゃないの
わたし クラシックしか勉強してきてないんですけどぉ〜〜 」
ふう 〜〜〜 また特大のため息。
でも 踊らなきゃならない のよね ・・・ う〜〜ん
まさに彼女はアタマを抱えてしまった。
「 ・・・ まだ 起きてるのかい? 」
リビングの入口から声がした。
「 あ ・・・ ジョー ・・・ ごめんなさい、煩かった? 」
「 いや 全然。 水 飲みたいな〜って降りてきただけさ。 」
「 そう? 」
「 今晩はもうこれくらいにしたら? 明日も早いんだろ 」
「 え? きゃ もうこんな時間〜〜〜 」
「 こんな時間 だよ? 」
「 ・・・ でもね 全然覚えられないの。 」
「 ?? なにを 覚えるのかい 」
「 あ ああ あの・・・ 今度踊るおどりの振付。
そのう〜〜 踊りの順番が 覚えられないのよ。
」
「 ・・・ ぼくは よくわかんないけど ・・・
一度に全部、じゃなくて 少しづつ・・・ってのはダメなの? 」
「 ううん そうするわ。
あ ねえ ジョー。 ちょっと聞いてもいい 」
「 ?? ぼくに?? なに 」
「 え あ〜 うん ・・・・ あのね、自分とはかけ離れたキャラを
演じるって どうしたらいいのかな〜〜って・・・ 」
「 え ・・・ う〜〜 ・・・ ぼくは役者でもダンサーでも
ないからなあ ・・・ その人物のキモチになってみる、とか
同じような恰好をしてみる とか ・・・? 」
「 キモチ ・・・ 気分のことね? 」
「 まあ そうかな
」
「 そっか ・・・ そうね ありがとう ジョー 」
「 え いや その・・・ ぼくは 踊りのこと、全然わかんないから
役に立たないと思うけど 」
「 そんなこと ないわ。 すごいヒントだわ。
うん ・・・ いいこと聞いたわ、 決めた! 」
「 え そ そっかな〜〜〜 」
「 ふふ メルシ ジョー 」
ちゅ。 ちっちゃなキスが ジョーのほっぺに飛んできた。
う うわ〜〜〜お〜〜〜〜♪
翌日の夜 ― バス・ルームにて・・・
「 そうよね〜〜 ちょっと気分から入ってみるのもいいわよね。
ジプシー娘 ったら 髪は黒 でしょう?
うっふ 髪〜〜 染めてみよっ カンタンな髪染めがいっぱいあって
助かっちゃった 」
フランソワ―ズは ごそごそ、しゅしゅしゅ〜〜 ・・・ 作業に没頭した。
翌朝、 ジョーは例によって寝坊したので 彼女が出かける姿を
見送ることはできなかった。
≪ サンドイッチ と ミルクは冷蔵庫。 遅刻しないようにね F。 ≫
そんなメモが キッチンのテーブルでジョーを待っていた。
「 ・・・ あ ありがとう〜〜〜 フランソワーズぅ〜〜〜〜
レッスン、がんばれ。 ぼくも バイトに行きます 」
彼は上機嫌で 朝食を食べ始めた。
「 ! うわお ・・・ マスタードがキツイけど〜 ハムサンド、ウマい!
うお? ポテト・サラダにワサビ? う〜〜 卵サンドはタバスコか〜
・・・ 美味しいけど なんか刺激つよいな〜〜 ミルク ミルク〜〜 」
ジョーは 牛乳パックを空にしていた・・・
その頃 バレエ団のスタジオでは ―
黒髪でちょいと濃い目の化粧をした女性が 入ってきた。
「 ・・・ ん っと。 おはよ〜〜 ございます〜〜〜 」
「 おはよ〜 ・・・ わ?? 」
「 ん? おはよ え〜〜 ふ フランソワーズ? 」
「 ?! すっご・・・ きゃ〜 イメチェンじゃ〜ん 」
「 フランソワーズって ・・・ お〜っと 黒髪のパリジェンヌか〜 」
ストレッチをしていた仲間たちが 次々に振り返った。
「 え ・・・へ・・・ どう ですか? 」
「 かっけ〜〜 よ〜〜 」
「 ちがうヒトみたい、にあうわぁ〜〜 」
ちょっと頬を染めている彼女に 皆は温かい声援をくれたのだった。
うふふ ・・・ ちょっと気分も大胆になった気分〜
フランソワーズは 張り切ってストレッチを始めた。
「 はい 始めますよ 」
〜〜〜〜 ♪
マダムの声と共に ピアノが軽く鳴った。
ザ −−− ダンサー達は立ち上がり それぞれバーについた。
「 はい 二番から。 ドゥミ・プリエ 二回 グラン 一回
アームスは 〜〜 はい どうぞ 」
さっと順番を指示すると ピアノが前奏を響かせダンサー達は大きく息をすった。
・・・ がんばる わ! ・・・
フランソワーズもきゅっと口を結んだ ―
「 は〜い じゃ ここまで。 お疲れさま〜〜 」
マダムの声と共に 全員がレヴェランスをし、拍手をした。
ピアニストさんにも感謝の拍手を送り 朝のクラスは終わった。
「 ・・・ あ〜 ・・・・ 」
タオルに顔を埋め フランソワーズはふか〜〜〜くため息を吐いた。
汗でタオルはもうぐちゃぐちゃだ ・・・ いつもの事だけど。
「 は〜〜あ 疲れたぁ〜 」
隣のみちよも ペットボトルの水をぐいぐい飲んでため息だ。
「 やっぱ できない ・・・ かも ・・・ 」
「 ? なに フランソワーズ 」
「 ・・・ 髪 黒くしても 情熱的な踊り なんてできない〜〜 」
「 う〜〜ん ・・・ 」
「 ど〜したらいいのぉ ・・・ 」
「 う〜〜ん ・・・ 」
「 みちよはどうしてるの? 優雅な踊り ・・・ 」
「 も〜ね 日常動作を優雅に〜〜 ・・・・って出来るワケないよ 」
「 だわよねえ ― 見かけだけ変えてもダメってことね 」
「 う〜〜ん ・・・ 」
思うに さ、 と みちよはのんびりと言った。
「 なりきる って姿形じゃないってことかなあ
フランソワーズは フランソワーズの 情熱的な踊り でいいんでないの? 」
「 そ ・・・ っか ・・・
ふふ じゃ みちよも元気がいいオデット、でもいいんじゃない? 」
「 うん! サンキュ フランソワーズ。 ね〜〜 がんばろっ 」
「 うん 」
「 ね 帰りにさ〜〜 ケーキ 」
「 だめよぉ ケーキは。 勉強会 終わってからね 」
「 う 〜〜 ・・・ あはは 」
仲良し二人は 笑い声を上げスタジオを出ていった。
「 ふんふん〜〜〜 黒髪ってなんか〜〜大胆になっちゃうわ♪
ちょっとイタズラしちゃお〜〜かな〜〜〜 」
フランソワーズは ご機嫌で帰宅すると玄関の前に立った。
ちょっと気取って ぴんぽん。 インターフォンを押してみた。
ふふふ〜〜 わかるかなあ ・・・
ヨソのヒトみたいでしょ?
ところが。
は〜い
すぐにジョーの声が応じ ―
「 Bonjour ? 」
「 ? あ〜〜 フラン どしたの? 開かない?
セキュリテイの音声チェック、壊れてたかなあ 〜 はい 」
ガチャ。 玄関のドアが開いた。
「 おかえり〜〜〜 フラン
」
「 あ ただいま ジョー ・・・ あのぉ〜〜〜 」
「 すぐに直しておくね。 」
「 そ そう ね ・・・ あの ね、わたし 」
「 うん? 開かないって困るもんね。 」
「 うん ・・・ お茶にしましょ 」
「 わい。 あ その髪 なかなかいいね〜〜 」
「 そ そう? 」
「 うん カワイイよ〜〜 ・・・ ぼく、いつものフランが一番好き 」
「 え ・・・ 」
「 えへへ〜〜 チャイム 直すね 」
「 あ ・・・ 」
ジョーは 工具箱をとりに駆けていってしまった。
な〜〜んだ ・・・ すぐにわかっちゃったのね
でも
いつものフランが一番好き か ・・・
うふふ 〜〜
自然に笑みが浮かんできた。 彼女もご機嫌でキッチンに向かった。
カチン ・・・ カチャ カチャ・・・
「 おいし〜〜〜〜 フランのカフェ・オ・レ 〜〜 」
「 そう? 嬉しいわあ 」
「 ん〜〜〜 シフォンケーキもオイシイなあ 」
「 ジョーって優しいのね 」
「 え〜〜〜 そんなこと ないよぉ 」
「 ううん そんなこと あるわ。 ねえ ・・・ 聞いてもいい? 」
「 なに?? 」
「 あの ね。 わたしって 大人しくてほんわか してる? 」
「 え?? 」
「 皆の、 バレエ団の皆はね そう思ってるみたいなの、わたしのこと。 」
「 ふ〜〜ん ・・・・ 」
「 ねえ わたしって大人しい? 」
「 きみは 大人しいかって? と〜んでもないよ〜ぉ
ぼく達の中で一番 ・・・ 」
気が強くて … と言いそうになって ジョーは口を噤んだ。
実際
最強は フランソワーズだ、 と ジョーは確信しているのだが。
「 一番 ・・・ なに? 」
「 あ〜〜〜 いちばん ・・・ げ 元気! 」
「 そうよね! じゃあ いつものわたしで踊ればいいのかなあ 」
「 あ この前言ってた 次に踊るヤツのこと? 」
「 そ。 キャラになり切って・・・って思ったんだけど なかなかできなくて 」
「 あ〜〜 ぼく そんなコト、言ったよなあ ・・・
ねえ、 フランの気持ちを 踊れば? 」
「 わたしの気持ち? あのね ジプシー娘の踊り なの。 」
「 ジプシー? う〜ん
それじゃ そのジプシーさん はなにを主張したいわけ? 」
「 主張 … って
う〜ん ?
叶わぬ恋 かしら
」
「 そっか フランだったら …
」
「 わたし
そういう恋って 経験ないのね〜 だからよくわかんなくて ・・・ 」
「 う〜ん そこは 想像力で さ〜 」
「 そうぞうりょく?
勝手に作るの? 」
「 いや クリエイト じゃなくて
イマジネイト の方さ 」
「 あ〜 そうねぇ う〜ん 」
「 あのさ、 ぼく 今 カメラの講座に行ってるんだけど
イイコト聞いたよ。
全く無関係な視点 と 思いっきり入り込んだ視点 が 必要だって。
ちょっと違うけど ・・・ フランのジプシー娘 それでいいって思うけど 」
「 それでいい ・・・っていうか それっきゃない、わね。
うん。 なんかすっきりしたわ。 ジョー ありがとう ♪ 」
「 えへ ・・・ あんまし参考にならないよね・・・ ごめん。
あ ・・・ 時たま 黒髪もいいかも〜〜 ぼく ・・・ すき 」
なぜかジョーは真っ赤になっていた。
その夜、フランソワーズは珍しくも海外に電話をした。
「 アルベルト? 」
「 ・・・ フランソワーズか。 なんだ 急用か 」
「 あ ちがうの。 私用デス。 あのね ・・・ 」
彼女は手短に状況を語った。
「 それで ね。 役になり切るって 恰好だけじゃダメね? 」
音楽という芸術に携わる仲間は 即答した。
「 当たり前だな。 オマエは 躍り子 じゃなくて アーティストだろうが 」
「 ・・・ え ? 」
「 え じゃない。 芸術を志すものの究極の目標はいつも ひとつ だ。 」
「 ひとつ? 」
「 自分が志す芸術のすばらしさを 世界中に広めること だ。
自身の演奏や 演技や 作品や 踊り で な。 」
「 そ・・・っか ・・・ 」
「 お前自身で、な。 」
「 うん わかったわ。 メルシ・・・ じゃなくて だんけしぇ〜ん 」
「 ふふん がんばれよ 」
「 うん♪ 」
次に市外電話を ヨコハマにかけた。
「 もしもし ・・・ グレート? 」
「 おう。 どうした、マドモアゼル。 じゃぱに〜ず・ぼ〜い と
ケンカでもしたのかい。 」
「 え 違うわよ〜〜 あのね ・・・・ 」
手短に事情を説明した。
「 役? ふむ。 なり切る、というのは初心者だな 」
「 え? 」
「 俳優とは 己自身を演じるのさ、その役の中で な。 」
「 役の中で? 」
「 左様。 誰がやっても同じハムレット など見るに値せんだろ 」
「 あ そうね。 」
「 マドモアゼルはマドモアゼルの 白鳥なり美女を踊りたまえ。 」
「 Yes sir !!!
」
「 がんばりたまえよ。 マドモアゼル。 」
「 は〜〜い♪ 」
わたしは ― わたしの中のジプシー娘を踊るわ
フランソワーズは かっきりと前をみつめた。
ステージは もうすぐだ。
Last updated : 05,08,2018.
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************ 途中ですが
え〜〜〜 コテコテのバレエ話 かも・・・・
で 続きます〜〜
白鳥〜 や ジゼル の他にも 魅力的な
バレエがた〜〜くさんあるのですヨ ♪